これまで2回にわたり、メンタルヘルスと過労死等の労災統計を見てきました。今回は視点を変えて、職業性疾病の中で最も発生件数が多い「腰痛」について、理学療法士の視点から解説します。
「6割」という数字の重さ
厚生労働省が示す「職場における腰痛予防対策指針」によれば、休業4日以上の職業性疾病のうち、腰痛は実に6割を占める、職場で最も発生件数の多い労働災害とされています。特定の重労働業種だけの問題と思われがちですが、実際には特定の業種のみならず多くの業種・作業に広がっている問題です。
中でも顕著なのが、高齢者介護をはじめとする社会福祉施設です。厚労省によれば、こうした施設における腰痛発生件数は、過去10年間で2.7倍に増加したとされています。この状況を受け、平成25年6月には指針が改訂され、適用範囲が「福祉・医療分野における介護・看護作業全般」にまで拡大されました。
なぜ「気合と根性」では腰痛は防げないのか
理学療法士の視点から見ると、腰痛は単に「重いものを持ったから」起きるわけではありません。前かがみで身体をひねる動作、中腰姿勢の維持、同じ動作の繰り返しなど、腰部に動的・静的な負担が積み重なることで発症リスクが高まります。移乗介助のように、人を抱え上げる動作は特に腰への負担が大きく、正しい介助技術を身につけていても、繰り返しの負荷が蓄積すれば発症を完全には防ぎきれません。
「経験と根性で乗り切る」という発想は、身体力学的にはむしろリスクを高める考え方だと言えます。
厚労省指針が示す具体的な対策
改訂指針では、腰部に著しく負担のかかる移乗介助等について、リフトやスライディングボード・シートなどの福祉用具を積極的に活用し、原則として人力による抱え上げは行わせないことが明記されています。介助される側の負担軽減にもつながる点が特徴です。
一方、介護・医療現場に限らず、デスクワーク中心の職場でも、長時間の座位姿勢が反り腰やスマホ首といった不良姿勢を招き、腰痛や肩こりの一因になることが指摘されています。こうした座位姿勢の改善を目的とした福祉用具の一つとして、体の軸の傾きをセルフチェックできる機能を備えたLaLaCoチェアのような製品も、職場環境改善の選択肢になり得ます。
腰痛対策は「投資」である
腰痛による長期休業や離職は、現場の人手不足に直結する経営リスクでもあります。健康経営の観点では、腰痛対策は単なる福利厚生ではなく、人材確保・定着のための投資と捉えることができます。作業管理士としても、動作分析に基づく作業環境の見直しは、コストをかけずに着手できる第一歩だと考えています。
まとめ:動作を見直すことが最大の予防策
腰痛は「発生してから対処する」のではなく、動作・姿勢・環境の3つの側面から予防的に取り組むことが重要です。次回は、レジ作業や配膳、PC作業など、現代的な職場に潜む「作業態様による疾病」について解説します。
著者:影石言光(ラグスタ株式会社)/理学療法士・作業管理士・メンタルヘルスマネジメント検定Ⅱ種
