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経営層が「YES」と言った稟議書の共通点——健康経営予算を通した担当者が実践した「数字・事例・リスク」3点構成テンプレート

2026.04.27


「健康経営に取り組みたいが、予算が下りない」——人事担当者から最も多く聞くこの言葉の裏には、稟議書の構成ミスが隠れていることが多い。

経営者は「従業員に優しい会社にしたい」という情緒的な訴えには動かない。動くのは「やらないと損をする」という数字と論理を突きつけられたときだ。

本記事では、実際に健康経営予算の承認を勝ち取った担当者たちに共通する稟議書の構造を分解する。それが「数字・事例・リスク」の3点構成だ。記事の後半には、そのまま使えるテンプレートも用意した。


❌ なぜ健康経営の稟議は「却下」されやすいのか

多くの担当者が犯すミスは、稟議書を「健康施策の説明書」として書いてしまうことだ。経営者にとって稟議書は「投資判断」の材料であり、「いい取り組みかどうか」ではなく「やった方が儲かるか、やらないとまずいか」で判断される。

下の「NG稟議 vs OK稟議」の違いを見てほしい。書いてある事実は同じでも、受け取る印象はまるで違う。

✗ 却下される稟議書の特徴
  • 「従業員の健康増進のため、○○サービスを導入したい」
  • 費用の記載はあるが、効果は「モチベーション向上が期待される」
  • 他社事例がない、あっても定性的な感想のみ
  • 「やらなかった場合」について言及なし
  • 3年後の姿・数値目標が不明確
✓ 承認される稟議書の特徴
  • 「現在、プレゼンティーズムで年間○○万円の損失が試算される」
  • 投資額・回収期間・KPIが数字で明示されている
  • 同業種・同規模の導入事例と成果指標がある
  • 「何もしない場合のリスク」が具体的に書かれている
  • 3年間のROI予測が添付されている

経営者が稟議書を読む時間は、平均して3分以内とも言われる。その短い時間で「これはやるべきだ」と判断してもらうためには、構造的な論理展開が不可欠だ。

✅ 予算を通した担当者が使った「3点構成」の正体

承認された稟議書に共通していたのは、必ずこの順番で書かれていたことだ。

① 数字(現状コストの可視化) → ② 事例(同じ課題を解決した証拠) → ③ リスク(やらない場合の損失)

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POINT 1 / 最初の一撃

「数字」——経営者が知らない、社内に眠るコスト損失を可視化する

稟議書の冒頭に何を書くか。それは「今この瞬間も、御社は健康課題でいくら損をしているか」という現状コストの試算だ。これが経営者の目を引く「最初の一撃」になる。

健康関連コストは大きく3層に分かれる。経営者が最も認識していないのが「プレゼンティーズム」——出社はしているが、心身の不調で本来のパフォーマンスを発揮できていない状態だ。

7割超
企業の健康関連コスト全体に占めるプレゼンティーズムの割合
出典:厚生労働省保健局コラボヘルスガイドライン
139万円
超高ストレス者1人あたりの年間プレゼンティーズム損失額(平均年収400万円想定)
出典:ユナイテッド・ヘルスコミュニケーション調査
7.6兆円
心身の不調による日本全体の年間経済的損失(アブセンティーズム含む)
出典:各種研究報告の推計値

稟議書への落とし込み方

全国平均の数字を使うだけでは説得力が弱い。大切なのは「自社の数字」に換算することだ。次の計算式で、自社版の試算を稟議書に盛り込もう。

📐 自社の健康関連損失の試算式

①プレゼンティーズム損失(簡易版):
 従業員数 × 平均年収 × プレゼンティーズム損失率(一般的に5〜10%)

②アブセンティーズム損失
 年間総病欠日数 × (平均年収 ÷ 年間労働日数)

③採用・育成コスト損失(健康関連離職分):
 健康関連の離職者数 × 1人あたり採用コスト(中途:50〜100万円)

この3つを合計した数字が「何もしなかった場合の年間損失額」であり、稟議書の「現状」欄に記載する。投資額との比較が一目瞭然になる。

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POINT 2 / 疑念を消す切り札

「事例」——「うちでも本当に効くのか」という疑念を、同業他社の成果で消す

数字で問題を認識させた後、経営者が次に思うのは「でも、うちで本当に効果が出るのか?」だ。ここで有効なのが「同業種・同規模・同課題」の他社事例だ。「○○業の中小企業でも成果が出た」という事実は、あらゆる説明より強力だ。

📌 事例①:会計事務所 × 離職率改善

大卒就職者の3年以内離職率が高止まりしていた静岡県内の会計事務所では、副社長の提案で健康経営に着手。週のノー残業デー設定・健康セミナー・社内ウォーキング部の設立などを推進した結果、3年以内離職率が業界平均を大きく下回る18%(2021年度)まで低下。採用コストの削減にも直接貢献した。

📌 事例②:製造業 × 医療費削減

健康経営に取り組んだ製造業A社では、健康診断の受診率向上と早期受診勧奨を徹底した結果、5年間で医療費を20%削減したと報告されている。B社でも同様のアプローチにより15%の医療費削減を達成。健康経営への投資は「コスト」でなく「回収できる投資」であることが実証されている。

📌 事例③:健康経営優良法人認定 × 採用競争力

健康経営優良法人の認定を取得した企業は、ハローワーク求人票にその認定が表示される。実際、認定を採用サイトに掲示した企業からは応募者数の増加が多数報告されており、特に20〜30代・育児介護世代に刺さる訴求ポイントとなっている。中途採用コスト相場(1名あたり50〜100万円以上)と比較すれば、認定取得への投資対効果は極めて高い。

「事例」を稟議書に入れる際の3つのルール

  • 業種・規模を自社に近づける——大企業の事例は「うちとは違う」と逃げられる。可能な限り同業種・同規模の事例を使う
  • 定性より定量——「社員が喜んだ」より「離職率が○%低下」「医療費が○%削減」という数字で語る
  • 出典を明記する——経産省・厚労省・経済団体の公表資料から引用することで信頼性が格段に上がる

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POINT 3 / 決断を促す最後の押し

「リスク」——「やらない選択」が実は最もコスト高であることを突きつける

稟議書の最後に置くべきなのは「やった場合のメリット」ではなく「やらなかった場合のリスク」だ。人間は「得をする可能性」より「損をする可能性」のほうが2倍強く行動を動機づけることが心理学的に知られている。経営者も例外ではない。

健康経営への不作為が招くリスクは、大きく4つのカテゴリに分けられる。

⚡ リスク① 採用・定着コストの増大

求職者が企業を選ぶ基準に「会社が健康を大切にしているか」が明確に加わっている時代だ。健康経営に取り組まない企業は「選ばれない企業」になっていく。離職率が1%悪化するだけで、従業員100人の企業では年間数百万円規模の追加採用コストが発生する。

⚡ リスク② 法的コンプライアンスリスクの増大

2026年の労働安全衛生法改正により、高年齢労働者対策・治療と仕事の両立支援が努力義務化された。ストレスチェックは2028年に50人未満事業場にも義務化される。今から準備を進めない企業は、法改正のたびに追われる「後手の対応」を繰り返すことになる。

⚡ リスク③ 労災・訴訟リスクの増大

健康対策を怠った結果として従業員が過労・メンタル不調・転倒・腰痛などで労災認定された場合、安全配慮義務違反として損害賠償請求を受けるリスクがある。実際の訴訟では数千万円規模の賠償命令が出る事例も存在する。健康投資の費用と比較した場合、どちらのリスクが高いかは明白だ。

⚡ リスク④ 競合他社との差別化機会の喪失

健康経営優良法人の認定企業数は年々増加しており、同業他社が取得済みであれば、未取得の企業は求職者・取引先・金融機関から「遅れている企業」と見られる可能性がある。特に融資審査や入札資格審査においても、健康経営の取り組みが評価要素に含まれるケースが増えている。

📄 そのまま使える「3点構成」稟議書テンプレート

以下のテンプレートは、「数字→事例→リスク」の3点構成をベースに、経営者が判断しやすい順序で情報を配置している。緑色のイタリック部分を自社の情報に書き換えて使用してほしい。

📋 稟議書テンプレート:健康経営施策の導入について

健康経営推進に向けた ○○(施策名) 導入の件

予算額:○○万円(年間) / 
対象:全従業員 ○名 / 
開始時期:○年○月

当社では現在、下記の健康関連コストが発生していると試算される。

・プレゼンティーズム(生産性低下)による年間損失:従業員○名 × 平均年収○万円 × 損失率○% ≒ 年間約○○万円
・アブセンティーズム(休職・欠勤)による損失:年間○日 × 日次人件費○円 ≒ 年間約○○万円
・直近3年間の健康関連離職者数:○名(採用コスト換算:約○○万円)

これらを合計すると、健康課題に起因する年間損失は約○○○万円と見込まれる


同業種・同規模の導入事例として以下を確認している。

業種・企業規模施策名を導入した結果、○年間で離職率○%低下 / 医療費○%削減 / 欠勤日数○%減を達成(出典:経産省公表事例 / 健康経営優良法人事例集 等

本施策の導入により、当社では下記のKPI達成を目標とする。
・1年目:欠勤日数○%削減 / ストレスチェック高ストレス者率○%低下
・3年目:離職率○%改善 / 医療費○%削減 → 投資回収予測:約○年


本施策を実施しない場合、以下のリスクが継続・拡大する。

コスト継続リスク:上記①の健康関連損失○○万円/年が継続、かつ高齢化・人手不足に伴い増大が見込まれる
法的リスク:2026年の労働安全衛生法改正・2028年のストレスチェック義務化に対して、後手の対応を強いられる
採用競争力低下リスク:同業他社が健康経営優良法人認定を取得する中、未取得企業は求職者・取引先からの信頼を失う可能性がある
労災・訴訟リスク:健康管理の不作為が安全配慮義務違反と認定された場合、賠償リスクが生じる


・年間投資額:○○万円
・現状の健康関連年間損失(試算):○○○万円
・3年後の予測削減額:○○万円(ROI ○○%
・投資回収見込み:○年以内

担当:人事部 ○○ / 
○年○月:キックオフ・従業員周知 / 
○年○月:第1回施策実施 / 
○年○月:効果測定・報告

⚠️ 承認後に「やっぱりダメだった」を招く、稟議書のよくある落とし穴

構成が正しくても、細部のミスで却下や「様子見」に持ち込まれることがある。以下は実際によくある落とし穴だ。


  • 目標KPIが「受診率100%」だけ——受診率は手段であって目的ではない。「欠勤日数○%削減」「高ストレス者率○%低下」など、経営成果に直結するKPIを設定すること

  • 費用の「内訳」しか書いていない——「○○サービス:月○万円×12ヶ月」という羅列は稟議書ではなく見積書だ。投資額とリターンの比較を前面に出すこと

  • 「3年後に評価します」で終わる——経営者は「いつ、何の数字で判断するか」を明確にされないと承認しにくい。半年・1年・3年の検証タイミングと判断基準を明記すること

  • 大企業の事例だけを引用する——「トヨタが取り組んでいる」は中小企業の経営者には響かない。同規模・同業種の事例を最低1つ用意すること

  • 担当者一人で完結させようとする——稟議書を提出する前に、直属上長や財務担当に「数字の見せ方」を確認しておくこと。根回しは合理的な戦略

💬 まとめ——稟議書は「説明書」ではなく「投資提案書」である

健康経営への投資を承認させるとは、経営者に「健康でいい会社にしよう」と思わせることではない。「今すぐやらなければ損をする、そしてやれば確実に回収できる」と判断させることだ。

「数字」で現状の損失を可視化し、「事例」で実現可能性を証明し、「リスク」で不作為のコストを突きつける——この3点構成が揃ったとき、稟議書は「経費申請」から「戦略的投資提案」へと変わる。

✅ 3点構成 早わかりチェック
  • 数字——プレゼンティーズム・アブセンティーズム・採用コスト損失を「自社の数字」で試算して冒頭に置く
  • 事例——同業種・同規模・同課題の他社事例を定量データ付きで1〜2件盛り込む
  • リスク——採用競争力低下・法的リスク・労災リスクなど、「やらない場合のコスト」を明示して締める
  • KPIと検証タイミング——「半年後・1年後に何の数字で判断するか」を必ず記載する

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【参考データ出典】
・厚生労働省保健局「データヘルス・健康経営を促進するためのコラボヘルスガイドライン」
・ユナイテッド・ヘルスコミュニケーション株式会社「ストレスによる企業のコスト損失額試算」
・経済産業省「健康経営優良法人2022(中小規模法人部門)認定法人取り組み事例集」
・各種公開調査・報道等(採用コスト・離職率データ)
※本記事に記載の数値はあくまで試算・参考値です。自社での詳細な分析・算定は専門家にご相談ください。

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