健康経営コラム連載 第1回/全2回
理学療法士・作業管理士・メンタルヘルスマネジメント検定Ⅱ種
企業の健康経営支援や労働衛生に関するコンサルティング・セミナーを行っています。
「暑さ対策」ではなく「労働災害」という認識を
夏になると当たり前のように語られる「熱中症対策」。しかし、人事・総務担当者の多くは、これを健康管理上の注意事項の一つとして捉えていないでしょうか。
実際には、熱中症は明確な労働災害です。そして、その規模は決して小さくありません。熱中症による死亡労働災害は、労働災害による死亡者数全体の約4%を占める規模で発生し続けています。「うちの現場は空調が効いているから大丈夫」「屋外作業がないから関係ない」——そう考えている企業ほど、実は見落としが起きやすいというのが実態です。
全国データ:過去最多を更新した2025年
厚生労働省が公表した最新の確定値を見ると、2025年の職場における熱中症の死傷者数(死亡・休業4日以上)は1,803人にのぼり、統計を取り始めた2005年以降で最多となりました。前年比では約43%もの増加です。記録的な猛暑が主な要因とみられています。
この背景には、2025年6月に施行された改正労働安全衛生規則の効果があると厚労省は分析しています。つまり、「発症する人は増えても、重篤化させない仕組みがあれば命は守れる」ということが、データではっきり裏付けられた形です。
発症時期・業種の偏り
熱中症による労働災害は、例年7月・8月に集中して発生します。業種別では建設業・製造業で全体の約4割を占めており、屋外作業だけでなく、屋内の製造現場でも数多く発生している点に注意が必要です。
発症までの日数
見落とされがちですが、特に重要なのがこのデータです。過去の統計を見ると、熱中症による災害の約5割が、その作業場所で働き始めてから7日以内に発生しています。つまり、ベテラン従業員よりも、異動直後の社員や新規入場者、季節雇用の労働者の方が高リスクにあるということです。「暑さへの慣れ(暑熱順化)」ができていない時期の危険性を、多くの現場が過小評価しています。
滋賀県のデータ:過去20年で最多を記録
これは全国だけの話ではありません。滋賀労働局の調査によると、滋賀県内の事業所で働いている最中に熱中症となった被災者数(死傷者数)は、2025年に26人となり、統計のある過去20年間で最多を記録しました。前年の10人から大幅な増加であり、県内で猛暑日の最多記録を更新した年であったことが一因とみられています。実際、県内の2025年6~8月の平均気温は平年を2.4度上回りました。
一方、滋賀県内の死亡者数は2023年から3年連続でゼロとなっており、事業所での対策が一定の効果を上げていることがうかがえます。全国の傾向と同様、「件数は増えても、命を守る対策は機能し始めている」という構図です。裏を返せば、対策をしていない事業場では、いつ重篤化事例が発生してもおかしくない状況が続いているとも言えます。
草津市を含む県内の企業にとっても、これはもはや「よそ事」ではなく、身近な数字として受け止める必要があるデータです。
2025年、法律が変わった
こうした状況を受け、国は本格的に動き出しています。厚生労働省は2025年6月1日、労働安全衛生規則を改正・施行し、熱中症のおそれがある作業を行う際に、次の措置を事業者に義務付けました。
- 熱中症の自覚症状がある作業者や、そのおそれがある作業者を見つけた者が報告するための体制整備
- 重篤化を防止するための措置手順の作成
- これらの体制・手順の関係作業者への周知
これまでの安衛則には、発汗作業に関する規定はあっても、熱中症対策そのものを直接の目的とした条文はありませんでした。今回の改正で、企業は「対策をとっていれば良い」という努力目標の段階から、「対策をとることが義務」という段階に移ったのです。
現場で見落とされがちな視点
理学療法士として現場を見てきた立場から付け加えると、熱中症の怖さは「気づいた時にはすでに重症化している」という点にあります。初期症状(軽いめまい、こむら返り、だるさ)は、本人が「疲れているだけ」と自己判断してしまいやすく、特に一人作業の現場では発見が遅れがちです。
これは根性や注意力の問題ではなく、仕組みの問題です。個人の自覚に頼る予防策には限界があり、だからこそ法改正でも「早期発見・早期対応の体制づくり」が重視されています。
今回は、熱中症という労働災害の「実態」を全国・滋賀県のデータで確認しました。次回は、この実態を踏まえて、企業が今すぐ着手すべき対策と、それを単なるコストではなく「健康経営への投資」として位置づける考え方についてお伝えします。