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転倒労災3.7万人、見える化は5.8%        努力義務化で問われる「体力把握」の実務

2026年4月、高年齢者の労働災害防止措置が事業者の努力義務になりました。そして9月、厚生労働省は企業向けの冊子で「定期的な体力測定」を対策の柱の一つとして示しました。段差や照明の改善は進めていても、「従業員一人ひとりの転倒リスク」まで把握できている企業はまだ多くありません。本記事では、最新のデータと冊子の内容を整理したうえで、体力測定を「測って終わり」にせず、転倒対策の効果まで評価する実務の進め方を解説します。

1. 労災で最も多いのは「転倒」──増え続ける経営リスク

厚生労働省によると、転倒による死者と休業4日以上の負傷者は2025年に3万7195人となり、労災全体の3割近くを占め、2015年から約1万1千人増加しました。機械への挟まれや墜落よりも、「つまずいた」「滑った」という日常動作の事故が、職場のけがの最大要因になっています。

背景にあるのは働き手の高齢化です。雇用者全体に占める60歳以上の割合は2025年で約2割に達し、今後も増える見込みです。さらに厚労省資料によれば、30歳代と比べた労災発生率は60歳以上の男性で約2倍、女性で約5倍とされ、休業見込み期間も年齢とともに長くなる傾向があります。

つまり転倒は「件数が多い」だけでなく、「一度起きると長く休む」災害です。熟練者が数週間から数か月現場を離れれば、代替要員の確保、生産性の低下、労災手続きの負担が同時にのしかかります。

滋賀県内でも他人事ではありません。滋賀労働局は管内で50〜60歳代の女性労働者の転倒災害が多発していることを受け、2025年にシニア女性の転倒防止をテーマとしたセミナーを開催しています。

2. 努力義務化と厚労省冊子──国が示した「環境」と「体力」の両輪

2026年4月1日から、高年齢者の特性に配慮した労働災害防止措置が事業者の努力義務となりました。厚生労働省の指針では、職場環境の改善に加えて、健康や体力の状況を把握し、それに応じた対応を進める考え方が示されています。

これを実務に落とし込む資料として公表されたのが、厚労省の冊子「社内で実施可能な行動災害防止に向けた取り組み」です。報道によると、冊子では次のような対策が挙げられています。

環境面の対策としては、2センチ以下の小さな段差もスロープで解消すること、全体照明と局所照明を併用して影を作らないこと。加えて、解消できない段差は黄色と黒のトラテープで目立たせ、床の配線コードはカバーで覆うか空中に通すこと、ヒヤリハット事例をアンケートなどで集めてリスクを見える化することが示されています。

身体面の対策としては、定期的な体力測定で従業員に自分の体の状態を正しく知ってもらうことが必要だとされています。

冊子は、こうした職場改善を「老いへの対策」ではなく、ベテランの技を次の世代へ引き継ぎ、長く元気に働いてもらうための投資として位置付けることで、組織の士気が高まるとも提案しています。高年齢従業員を「リスク」として扱うのではなく「長く活躍してもらうための投資」として説明できる点は、社内で施策を通すうえでも重要な視点です。

3. それでも進まない「一人ひとりの見える化」

環境改善に比べて、体力の把握は多くの企業で後回しになっています。2024年の労働安全衛生調査では、骨密度やロコモ度などのチェックで転倒やけがのリスクを見える化している企業は、1000人以上の事業所でも22.6%、全体では5.8%にとどまるとされています。

担当者の立場から見ると、進まない理由ははっきりしています。

  • 何を測れば「転倒リスク」が分かるのか、判断基準がない
  • 測った結果をどう解釈し、どう対策につなげればよいか分からない
  • 健康情報に近いデータを扱うことへの不安がある
  • 現場を止めて測定する時間と手間を確保しにくい

体力測定は「やること」自体より、「結果を使える形にすること」のほうが難しいのです。

4. 環境対策だけでは転倒は防げない理由

段差をなくし、照明を明るくしても、転倒リスクはゼロになりません。理由は二つあります。

一つ目は個人差です。厚労省の検討会報告書では、高年齢者の災害発生率の増加には個人差があるものの、業務上のリスクに加えて、加齢とともに進む筋力やバランス能力、身体の頑健さの低下によるリスクが上乗せされていることが大きいと分析されています。同じ60歳でも、若手並みに動ける人もいれば、すでに片足でほとんど立てない人もいます。職場環境は全員共通ですが、リスクは一人ひとり違います。

二つ目は自己認識とのズレです。「まだまだ動ける」という本人の感覚と実際の身体機能との間にギャップがあると、とっさの一歩が出ずに転倒につながります。測定の目的は、会社が状態を知ることだけでなく、本人が自分の体の現状を正しく知ることにもあります。

5. ラグスタの体力測定──転倒リスクを5項目で見える化

ラグスタ株式会社では、中央労働災害防止協会(JISHA)の転倒等リスク評価で用いられる5項目をベースに、理学療法士が測定と評価を行います。

測定項目 主に分かること 転倒との関係
2ステップテスト 歩幅・下肢筋力・バランス 大股で踏み出す力が落ちると、つまずいた時に足が出ない
座位ステッピングテスト 脚の敏捷性 素早く足を動かせないと、段差や障害物への反応が遅れる
ファンクショナルリーチ 動的バランス 前に手を伸ばした時に姿勢を保てる範囲が分かる
開眼片足立ち 静的バランス 階段昇降や方向転換で片足になる瞬間の安定性
閉眼片足立ち 視覚に頼らないバランス 暗い場所・影の多い場所での転倒リスク

参考値として、医学的なエビデンスが明確な基準を一部ご紹介します。2ステップテストは、日本整形外科学会のロコモ度テストで2ステップ値(2歩の距離÷身長)が1.3未満になると、移動機能の低下が始まっている状態(ロコモ度1)とされています。また開眼片足立ちが15秒未満の場合、同学会の「運動器不安定症」の評価基準の一つに該当するとされています。

ただし、1項目だけで転倒リスクを判断することはできません。ラグスタでは、働く世代と高年齢層それぞれに合わせて、複数項目を組み合わせた独自の判定基準(要注意/要対策の2段階)を設けています。詳しい判定ロジックは、導入のご相談時にご説明します。

6. 「測って終わり」にしない──転倒対策を評価する4ステップ

体力測定の価値は、結果を対策につなげ、その効果を確かめられることにあります。ラグスタでは次の流れで支援します。

STEP 1 測定とリスクの層別化

全従業員(または対象年齢層)を測定し、個人ごとのリスクを判定。部署・年代・性別ごとの傾向を集計し、「どこに、どんなリスクが集中しているか」を明らかにします。

STEP 2 結果の共有と本人の気づき

測定結果は報告書として会社にご返却します。ご本人の同意を得た個人結果は、会社を通じて本人へ共有いただくことで、「思っていたより片足で立てない」「踏み出す力が落ちている」といった自己認識とのズレに気づくきっかけになります。この気づきが、行動変容の出発点になります。

STEP 3 対策の実施(身体×環境)

弱点に合わせた短時間のエクササイズ指導と、ヒヤリハット情報と測定結果を突き合わせた職場環境の改善提案を行います。「バランスが低い人が多い部署の暗い通路」のように、身体と環境を掛け合わせて優先順位をつけられるのが、測定データを持つ強みです。

STEP 4 再測定で効果を評価

一定期間後に同じ項目を再測定し、改善度を数値で確認します。「対策をやった」ではなく「リスクがどれだけ下がったか」を経営層に報告できるため、次年度の予算化や健康経営の取り組み実績としても活用できます。

7. ご担当者からよくあるご質問

Q. 1人あたりの測定時間と、必要なスペースは?

A. 1人あたりの測定時間は約5分です。1回の実施で30名程度まで測定でき、会議室1室ほどのスペースがあれば実施可能です。業務の合間に順番に測定できるため、現場を長時間止める必要はありません。

Q. 個人の測定結果の扱いはどうなりますか?

A. 測定結果は報告書として会社にご返却します。報告書は部署・年代別などの集計データが基本で、個人ごとのデータはご本人の同意を取得した場合に限りお渡しします。健康情報に近いデータだからこそ、取り扱いルールを明確にしたうえで実施します。

Q. 事業所まで来てもらえますか?対応エリアは?

A. はい、測定機材を持参して事業所へ伺います。草津市・大津市を中心に、滋賀県内の事業所に対応しています。

Q. 費用の目安は?補助金は使えますか?

A. 1回の測定で20万円〜(税別、対象人数により変動)です。再測定を含めた継続的な実施については、回数に応じた年間プランなどをご相談いただけます。なお、厚労省のエイジフレンドリー補助金など、高年齢労働者の安全対策に使える公的支援制度もあります。対象要件は年度ごとに異なるため、最新の公募要領をご確認ください。

監修者プロフィール

影石 言光(ラグスタ株式会社 本社統括取締役)

理学療法士(2008年取得)。2013年から2021年までプロ野球球団のトレーナーとして、トップアスリートの身体評価とけが予防に携わる。現在は滋賀県草津市を拠点に、企業の健康経営支援と体力測定・運動指導を行う。

まとめ

  • 転倒は労災で最も多い事故型であり、高年齢者ほど発生率が高く、休業も長期化しやすい
  • 2026年4月から高年齢者の労災防止措置は努力義務となり、厚労省は環境改善に加えて定期的な体力測定を求めている
  • 一人ひとりの転倒リスクを見える化できている企業はまだ少数で、取り組むこと自体が差別化になる
  • 体力測定は「測って終わり」にせず、対策と再測定で効果を評価することで、経営層に説明できる施策になる

自社の転倒リスクを、まず数字で把握しませんか。

測定内容や進め方のご相談は、下記よりお気軽にお問い合わせください。

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出典

厚生労働省「社内で実施可能な行動災害防止に向けた取り組み」(令和7年度委託事業)
厚生労働省「高年齢労働者の労働災害防止対策に関する検討会報告書の概要」
共同通信配信記事(2026年9月19日)/日本経済新聞(2026年9月20日)
日経BP「増え続けるシニア労災、26年4月から防止対策が努力義務に」
労働新聞社(滋賀労働局のシニア女性転倒防止セミナーに関する記事)

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