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健康経営

労災統計から読み解く健康経営              第4回 作業態様による疾病編

前回は職業性疾病の6割を占める腰痛について取り上げました。今回は、腰痛とは異なるメカニズムで発症する「作業態様に起因する疾病」について、理学療法士の視点から解説します。

腰痛だけではない「動作の繰り返し」が招く疾病

身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する疾病は、腰痛だけではありません。労働基準法施行規則が定める職業病分類には、頸肩腕症候群や手指前腕障害といった、上肢に生じる運動器障害も含まれています。

頸肩腕症候群・上肢障害とはどのような疾病か

上肢障害とは、上肢等に過度の負担のかかる業務によって、頸部・肩甲帯・上腕・前腕・手指などに生じる運動器の障害の総称とされています。代表的なものとして頸肩腕症候群、手根管症候群、腱鞘炎などが挙げられます。厚生労働省はこうした上肢障害について、労災補償の対象とするための認定基準を定めており、直近(2023年度)の認定率は65.1%と、精神障害(34.2%)や脳・心臓疾患(24.7%)と比べて高い水準にあるとされています。認定基準が明確に整備されている分、業務との因果関係が立証されやすい疾病であるとも言えます。

理学療法士の視点から見ると、これらの疾病は「同一姿勢の維持」と「同じ動作の反復」という2つの要因が重なることで発症リスクが高まります。重量物を扱わない作業であっても、繰り返しの多い作業や不自然な姿勢の固定は、腰痛とは異なる形で身体に負担を蓄積させます。

現代の職場に潜むリスクを翻訳する

かつてこの職業病分類は、工場のライン作業や電話交換手のような特定業務を念頭に整備された経緯がありますが、その考え方自体は現代の多くの職場にも当てはまります。たとえばレジ業務での繰り返しのスキャン動作、配膳・下膳での前傾姿勢の反復、長時間のPC作業でのマウス操作や同一姿勢の維持などは、いずれも上肢や頸部に負担が蓄積しやすい作業態様です。これらは統計上独立した業種区分として集計されているわけではありませんが、作業管理士の視点からは、リスク要因として共通するメカニズムを持つ作業だと捉えられます。

統計上は独立して集計されていなくても、「同一姿勢の維持」と「動作の反復」という共通のメカニズムに着目すれば、対策を講じるべき職場は決して少なくありません。

小さな改善が、大きな予防につながる

対策として大がかりな設備投資が必要なわけではありません。作業の合間に短い休憩を挟む、同じ姿勢を長時間続けない工夫をする、モニターやレジ台の高さを見直すといった小さな改善の積み重ねが、上肢障害や頸肩腕症候群の予防につながります。健康経営の観点からは、こうした地道な作業環境の見直しも、立派な投資対象として位置づけることができます。

まとめ:見えにくいリスクほど、早期の気づきが重要

上肢障害は腰痛や精神障害と比べて認知度が低く、症状が軽いうちは見過ごされがちです。だからこそ、日頃から「違和感」を相談しやすい職場づくりが重要になります。次回は、高齢化が進む職場における熱中症リスクについて、年齢別の統計をもとに解説します。

著者:影石言光(ラグスタ株式会社)/理学療法士・作業管理士・メンタルヘルスマネジメント検定Ⅱ種

健康経営

執筆者 影石 言光

ラグスタ株式会社 本社統括取締役

理学療法士・作業管理士・メンタルヘルスマネジメント検定Ⅱ種
パーソナルジム運営、企業の健康経営支援、高校・企業でのセミナー実績を持つ。臨床の視点から、職場の身体的リスクと組織課題を結びつけた支援を行っている。