これまで4回にわたり、メンタルヘルス・過労死・腰痛・上肢障害と、労災統計から健康経営の課題を見てきました。今回は、近年深刻化する熱中症について、高年齢労働者の視点から最新データを解説します。
死傷者数は統計開始以来最多を記録
厚生労働省が公表した令和7年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)によれば、2025年の職場での熱中症による死傷者数(死亡・休業4日以上)は1,803人(前年比約43%増)に上り、統計を取り始めた2005年以降で最多を記録したとされています。気象庁によれば、2025年夏(6月〜8月)の平均気温偏差は+2.36℃と観測史上最高であり、この記録的な猛暑が死傷者数増加の一因と推測されています。
死傷者は増えたのに、死亡者は減少している
一方で注目すべきは、死亡者数は19人(前年比約39%減)と減少している点です。厚生労働省はこの背景について、2025年6月に施行された改正労働安全衛生規則により、事業者に対して熱中症のおそれのある作業を行う際の報告体制の整備や対応手順の作成が義務付けられたことで、事業場における重篤化防止対策が進んだためと分析しています。死傷者数の増加そのものは深刻な事実ですが、「発生を防ぐ」段階から「重篤化させない」段階への対策転換が、一定の効果を上げつつあると言えるでしょう。
50歳代以上が死傷者の半数以上、死亡者の6割超
年齢別の傾向を見ると、令和6年(2024年)確定値では、50歳代以上の労働者が死傷者数全体の約56%、死亡者数全体の約67%を占めています。2020年以降の5年間の平均で見ても、死傷者数の約52%、死亡者数の約61%が50歳代以上に集中しており、傾向は継続的なものです。加齢に伴う身体機能の低下により、熱中症の重症化リスクが相対的に高くなることが背景にあると考えられます。
2025年の法改正で努力義務化された高年齢者配慮
こうした状況を受け、2025年5月に公布された改正労働安全衛生法では、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善や作業管理が事業者の努力義務として新たに規定されました(第62条の2)。現在、熱中症対策機器の導入を支援するエイジフレンドリー補助金は60歳以上を対象としていますが、休業4日以上の死傷者の7割以上が60歳未満であることを踏まえ、対象年齢の見直しも検討課題とされています。
理学療法士の視点からも、加齢による発汗機能や体温調節機能の低下は個人差が大きく、「若い頃は平気だった」という感覚だけで作業環境を判断することのリスクは、今後さらに重視されるべきだと感じています。
健康経営の視点:先回りした投資としてのエイジフレンドリー対策
労働力人口の高齢化が進む中、高年齢労働者が安全に働き続けられる環境整備は、単なる法令対応にとどまらず、人材の継続的な確保という経営課題そのものです。空調服やウェアラブルデバイスの導入、休憩体制の見直しなどは、補助金の対象拡大も見据えながら、先回りして着手する価値のある投資と言えるでしょう。
熱中症対策については、以前の連載記事「熱中症は労災の約4%を占める─データで見る職場の実態と2025年法改正」「熱中症対策は健康経営の投資対効果で語れ─企業が今すぐやるべきこと」でも、法改正の詳細や具体的な現場対策を解説していますので、あわせてご参照ください。スポーツ科学の知見をもとにした実践的な対策は「特別編」でも取り上げています。
まとめ:猛暑が「毎年のリスク」になった今、対策の再点検を
熱中症対策はもはや一時的な注意喚起ではなく、毎年更新すべき経営課題です。次回(最終回)は、定期健康診断の有所見率の推移から、生活習慣病対策と健康経営の関係について解説します。
著者:影石言光(ラグスタ株式会社)/理学療法士・作業管理士・メンタルヘルスマネジメント検定Ⅱ種
