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転倒リスク判定、セルフチェックと何が違う?

高年齢者の労災防止が努力義務となり、「体力測定をやらなければ」と考え始めた企業は増えています。一方で、担当者の本音は「中災防のチェックシートを使えば、自社でもできるのでは?」ではないでしょうか。その答えは「できます。ただし、測った後でつまずきやすい」です。本記事では、自社実施でぶつかりやすい壁を整理したうえで、ラグスタ株式会社が転倒リスクをどのような根拠で判定しているのかを公開します。専門家に依頼する価値があるかどうか、判断材料としてお役立てください。

1. 体力チェックは「自社でもできる」のか

前回の記事では、厚生労働省が冊子で定期的な体力測定を求めていること、そして転倒対策は「測って終わり」にせず効果まで評価することが重要だとお伝えしました。

体力チェックそのものは、自社でも始められます。中央労働災害防止協会(中災防)が販売する「転びの予防 体力チェックシート」は、質問票と身体機能計測で自分の転倒リスクが分かる仕組みで、2026年4月に適用された高年齢者の労災防止指針が求める体力チェックに適したツールとして案内されています。価格も手頃で、まず全体の傾向をつかむには十分に有効な選択肢です。

では、なぜ外部の専門家に依頼する企業があるのでしょうか。理由は、測定そのものよりも、その前後にあります。

2. 自社実施でつまずきやすい3つの壁

壁1:測り方で数値が変わる

片足立ちやファンクショナルリーチは、立ち位置、腕の角度、終了の判定など、細かな手順で結果が大きく変わります。測定者ごとに手順がばらつくと、部署間の比較も、翌年との比較もできなくなります。

壁2:同じ数値でも、年代によって意味が違う

たとえば開眼片足立ちが20秒だった場合、30代なら「やや低め」、75歳なら「年代平均より良好」と、解釈がまったく変わります。一律の基準で判定すると、若手のリスクを見落としたり、高齢者を過剰に「要注意」にしたりしてしまいます。

壁3:結果が出た後、何をすればいいか分からない

「評価1の項目がある従業員」が見つかったとき、その人は医療機関に行くべきなのか、運動で改善できるのか、配置の配慮が必要なのか。ここを判断できないと、チェックシートは配って回収しただけで終わってしまいます。

3. ラグスタの転倒リスク判定──5項目の根拠を公開します

ラグスタでは、中災防のチェックと同じ5項目を理学療法士が測定し、各項目を3段階で判定します。

  • 🔴 レッドフラッグ:要注意。専門家への相談を推奨
  • 🟡 イエローフラッグ:やや低下。経過観察と予防的な運動を推奨
  • 🟢 基準内:現状の維持を推奨

各項目の判定基準は、以下の研究や公的基準をもとに設計しています。

2ステップテスト(歩行能力・下肢筋力)

最大の2歩幅を身長で割った「2ステップ値」で評価します。現役世代向けには中災防の5段階評価を採用しており、同協会のセルフチェック票では2ステップ値1.24以下が評価1、1.25〜1.38が評価2とされ、評価2以下の項目は転倒リスクが高いと説明されています。高齢者向けには、日本整形外科学会の「ロコモ度テスト」の基準(2ステップ値1.3未満で移動機能の低下が始まっている状態)を用いています。

開眼片足立ち(静的バランス)

日本整形外科学会の「運動器不安定症」の機能評価基準では、開眼片脚起立時間15秒未満が基準の一つとされています。海外でも、平均73歳の316名を3年間追跡した研究で、片足立ちができないことが、けがを伴う転倒の唯一の独立した予測因子(相対リスク2.13)だったと報告されています。

ファンクショナルリーチ(動的バランス)

立ったまま腕をどこまで前に伸ばせるかを測ります。開発者のDuncanらが70〜104歳の217名を6か月追跡した研究では、リーチが約15cm以下の人は2回以上転倒するリスク(オッズ比)が4.02倍、約15〜25cmの人は2.00倍でした。

座位ステッピングテスト(敏捷性)

座ったまま20秒間で両足を開閉できた回数で評価します。現役世代は中災防の基準を用いています。高齢者向けの公的な統一基準はまだ確立されていないため、行政の介護予防事業で用いられている年代別・男女別の基準値を参照して判定しています。

閉眼片足立ち(視覚に頼らないバランス)

暗い場所や足元が見えにくい作業でのリスクを反映します。高齢になると保持時間が極端に短くなり、個人差の評価が難しくなるため、高齢者向けでは開眼片足立ちを主指標とし、閉眼は補助的な指標として扱っています。

このように、公的な基準がある項目は公的基準を、ない項目はその旨を明示したうえで研究データを参照しています。判定の根拠を説明できることは、従業員に結果を伝える際の納得感にも、経営層への報告の信頼性にも直結します。

4. なぜ「現役世代版」と「高齢者版」を分けるのか

ラグスタの判定表は、20〜64歳の就業者を対象とした「現役世代版」と、65歳以上を対象とした「高齢者版」の2種類です。

理由は、壁2で触れたとおり、同じ数値の意味が年代で変わるからです。そしてもう一つ、「若い世代は測らなくていい」とは言えないデータがあるからです。日本整形外科学会が紹介している671名の調査では、開眼片足立ちが15秒未満だった人は、30歳代でも10.4%、60歳代で12.8%、70歳代では26.8%にのぼったとされています。

現役世代版では早めに低下の兆しを見つけて予防につなげ、高齢者版では学会基準に沿って、すでに生じている機能低下を確実に拾う。対象に合わせて物差しを変えることで、「見落とし」と「過剰判定」の両方を防ぎます。

5. 1項目では決めない──総合判定と二次評価

どれか1項目が低いだけで「転倒リスクが高い人」と決めつけることはしません。ラグスタでは、5項目の結果を組み合わせた独自の複合ルールで、一人ひとりを「総合レッド」「総合イエロー」「総合グリーン」の3段階に判定します。組み合わせの詳しいロジックは、導入のご相談時にご説明しています。

総合レッドに該当した方には、オプション(別料金)として理学療法士による二次評価をご用意しています。TUG(椅子から立ち上がって3m先で折り返し、再び座るまでの時間)などの追加評価を行い、医療機関の受診をすすめるべきか、運動で改善を目指せるかを見極めます。チェックシートでは判断が難しい「その先」を、専門家が引き受けます。

6. 判定の先にある「対策」と「効果の確認」

判定はゴールではなく、対策の優先順位を決めるための道具です。

運動による転倒予防の効果は、国際的に確立されています。108件のランダム化比較試験を統合したCochraneレビューでは、運動によって転倒の発生率が23%減少し、バランス・機能的な運動では24%、それに筋力トレーニングを組み合わせると34%の減少が報告されています。これらは主に地域で暮らす高齢者を対象とした研究ですが、「弱っている機能を狙って鍛えれば転倒は減らせる」という原則は職場でも変わりません。

ラグスタでは、判定結果をもとに、フラッグの色に応じた運動指導と、部署ごとのリスク分布を踏まえた環境改善の優先順位づけを行います。そして一定期間後に同じ基準で再測定し、「レッドの人数が何人減ったか」「イエローからグリーンに移った人がどれだけいるか」という形で、対策の効果を数値で確認します。同じ手順・同じ基準で測り続けることが、効果検証の前提になります。

7. 自社実施とラグスタへの依頼、何が違うのか

比較項目 自社でセルフチェック ラグスタに依頼
費用 チェックシート代のみで低コスト 1回20万円〜(税別)
測定の手順 実施者によってばらつきやすい 理学療法士が統一手順で測定
判定基準 5段階評価(年代共通) 現役世代版・高齢者版で判定
総合判定 項目ごとの評価が中心 独自の複合ルールで3段階判定
要注意者への対応 社内で判断が必要 理学療法士が二次評価(別料金)
会社への報告 自社で集計 部署・年代別の集計報告書
効果の検証 基準・手順を揃えるのが難しい 同一基準で再測定し変化を評価

費用だけを見れば、自社実施が有利です。まずは全体の傾向を知りたい、という段階なら自社実施から始めるのも十分に合理的です。一方で、次のような企業では専門家への依頼が向いています。

  • 50歳以上の従業員が多く、転倒が実際に起きている
  • 安全衛生担当者が兼任で、測定や集計に時間を割けない
  • 要注意者が見つかったときの対応方針を決めておきたい
  • 対策の効果を経営層に数値で報告する必要がある

8. サービス概要

項目 内容
測定時間 1人あたり約5分(1回の実施で30名程度まで)
会場 会議室1室程度のスペースで実施可能
対応エリア 草津市・大津市を中心に滋賀県内(出張測定)
費用 1回の測定で20万円〜(税別、対象人数により変動)。再測定を含む継続実施は、回数に応じた年間プランをご相談いただけます
オプション 総合レッド該当者への理学療法士による二次評価(別料金)
結果の扱い 報告書として会社にご返却。部署・年代別の集計データが基本で、個人データはご本人の同意を取得した場合に限りお渡しします

監修者プロフィール

影石 言光(ラグスタ株式会社 本社統括取締役)

理学療法士(2008年取得)。2013年から2021年までプロ野球球団のトレーナーとして、トップアスリートの身体評価とけが予防に携わる。現在は滋賀県草津市を拠点に、企業の健康経営支援と体力測定・運動指導を行う。

まとめ

  • 中災防のチェックシートを使えば、体力チェック自体は自社でも始められる
  • ただし「測定手順のばらつき」「年代による解釈の違い」「結果が出た後の対応」でつまずきやすい
  • ラグスタの判定は、学会基準・中災防基準・転倒予測研究を根拠に、現役世代版と高齢者版の2種類で設計している
  • 1項目では判定せず、複合ルールによる総合判定を行い、要注意者には理学療法士の二次評価もご用意している
  • 同じ基準で再測定することで、転倒対策の効果を数値で確認できる

自社の転倒リスクを、根拠のある基準で確かめませんか。

判定の詳しい仕組みや、自社実施との組み合わせ方もご相談いただけます。

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参考文献

厚生労働省「社内で実施可能な行動災害防止に向けた取り組み」(令和7年度委託事業)
厚生労働省「令和6年 労働災害発生状況」
中央労働災害防止協会「転倒等リスク評価セルフチェック票」/「転びの予防 体力チェックシート」
中央労働災害防止協会「高年齢労働者の身体的特性の変化による災害リスク低減推進事業に係る調査研究報告書」(2010年)
日本整形外科学会「運動器不安定症」の定義と診断基準/「ロコモ度テスト」判定基準
村永信吾(2003)2ステップテストを用いた簡便な歩行能力推定法の開発
Duncan PW, et al. Functional reach: a new clinical measure of balance. J Gerontol. 1990;45(6):M192-7.
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Vellas BJ, et al. One-leg balance is an important predictor of injurious falls in older persons. J Am Geriatr Soc. 1997;45(6):735-8.
Sherrington C, et al. Exercise for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database Syst Rev. 2019;(1):CD012424.

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